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1. 要点のまとめ
- AI電話受付は便利だが、「100%自動化」はお客様の離脱を招くリスクがある
- 推奨バランスは「80%AI・20%人間」。人間につながる導線を必ず残すことが重要
- お客様は不満を言わずに黙って離れていく──だからこそ、設計段階での配慮が不可欠
- この「80:20」の考え方はAI電話に限らず、文章作成や経営判断などAI活用全般に通じる
※音声(ポッドキャスト)では、より詳しく丁寧にお話ししています。音声での視聴が1番オススメです。
2. AI電話受付で、予約を間違えられた実体験
先日、ずっと通っている歯医者に予約の電話をかけました。すると、いつもの受付スタッフさんの声ではなく、AIの音声が流れてきたんです。
「月曜の16時でお願いします」と伝えたところ、AIは「月曜の18時ですね。予約を確定します」と返し、そのまま通話が切れてしまいました。
慌てて掛け直し、予約の修正と治療について先生に確認したいことを伝えようとしました。ところが、AIは「ご予約の日時をお伝えください」をループするだけ。「人間に代わる」という選択肢が、一切用意されていなかったのです。
結局、その電話では何も解決しませんでした。
3. 「もう歯医者、変えたら?」──妻の一言が示す本音
この話を妻にしたら、即答でした。「もう歯医者、変えたら?」と。
私はAIを仕事にしている人間なので、ある程度は受け流せます。先生の腕も信頼しているので、通い続けるつもりです。でも、妻のこの反応こそが、多くのお客様の本音ではないでしょうか。
ここが事業者にとって一番怖いところです。お客様は怒って文句を言ってくれるわけではありません。黙って、静かに離れていくのです。
『ファスト&スロー』のダニエル・カーネマンの言葉を借りれば、これはまさに「システム1」──直感的な反応です。「この店、面倒くさいな」と感じた瞬間、人は理屈ではなく感情で離れていきます。
電話は、困っているときにかけるもの。予約を入れたい、ちょっと相談したい。そのタイミングで「話が通じない」「間違った予約を入れられた」と思わせてしまったら、それだけでネガティブな印象が刻まれてしまいます。
行動経済学の「ナッジ」の考え方で言えば、AI電話の設計はお客様の次の行動をそっと後押しするものであるべきです。しかし、逃げ道のないAI対応は、ナッジどころか"壁"。お客様を遮ってしまっているのです。
4. そもそもAI電話受付サービスとは?
ご存じない方のために簡単に説明すると、AI電話受付とは、お店や企業にかかってきた電話を人間のスタッフの代わりにAIが自動で対応するサービスです。
昔からある「〇〇の方は1番を押してください」というボタン式(IVR)とは別物で、AIが音声認識で相手の話を聞き取り、会話のキャッチボールをしてくれます。名前や電話番号の聞き取り、予約日時の調整なども可能で、最近の音声合成は人間とほとんど変わらないレベルです。
有名なサービスとしては「IVRy(アイブリー)」などがあり、月額数千円程度で導入できるものも増えています。人件費の削減、24時間365日の対応、電話の取りこぼし防止など、メリットは明確です。特に人手不足が深刻な医療やサービス業では、導入が加速しています。
仕組みとしては、本当にすばらしいサービスです。
5. 大切なのは「100%自動化しない」こと
AI電話受付の導入自体は大賛成です。人手不足の時代に使わない手はありません。ただし、「100%をAIに任せる」のはオススメしません。
私が推奨するバランスは、80%をAIで自動化し、20%は人間が対応するという設計です。
AIに任せるべき80%: 予約内容の確認、営業時間の案内、よくある質問への回答。これらはAIが得意な領域です。ここを自動化するだけで、現場の負担は大幅に減ります。
人間が対応すべき20%: 込み入った相談、イレギュラーな対応、感情的になっているお客様への対応。こうした場面では、人間が出てこないとダメです。
そして何より重要なのが、お客様が「人間と話したい」と思ったときに、すぐ人間につながる導線を用意しておくことだと思います。
私が通う歯科医院には、その導線がありませんでした。「人間と話す」という選択肢そのものが、設計から排除されていた。これが致命的だったのです。
電話をかけてきたお客様は、すでに自社のサービスに関心がある方、もしくはすでにお金を払ってくれている方です。その人を、AI対応だけで"詰ませて"しまうのは、あまりにもったいない。
GoogleやAppleのような膨大な顧客を抱える大手企業なら別ですが、特に集客を頑張っている中小零細の事業者にとっては、知らないうちに取りこぼしが発生しかねないのです。
6. この考え方は、AI電話だけの話ではない
「80%AI、20%人間」というバランスの話は、AI電話に限ったことではありません。
たとえば、AIで文章を書くとき。AIにゼロから100まで任せると、どこか他人行儀な、当たり障りのない文章になりがちです。でも、AIに80%のドラフトを書いてもらい、最後の20%を自分の言葉で仕上げる。または、AIに自分の心のこもった考えを丁寧に伝えて、それを文章として整えてもらう。こうすれば、ちゃんと"自分の文章"になります。
戦略を考えるときも同じです。AIに壁打ち相手になってもらい、選択肢を洗い出してもらう。でも最終的な意思決定は、自分の直感と経験で下す。
AIは最高のアシスタントですが、ドライバーズシートには人間が座っていないといけない。少なくとも、今はまだ。
AI電話に話を戻すと、お店がやるべきことは「AIを入れるか、入れないか」の二択ではありません。「AIに任せる範囲」と「人間が出るべき場面」を、きちんと設計すること。このバランスの見極めが、これからの時代、ビジネスの差になってくると思います。
もし今、AI電話の導入を検討している方がいたら、ぜひ覚えておいてください。
お客様にとっての最悪のシナリオは「AIとしか話せない」という状況です。AIで便利にすることと、人間の温度を消すことは、まったく違う話なのです。
皆さんが実利を得て、心に余白を持って、幸せに生きられることを祈っております。

執筆者
槙 優真
ジェネラルコンサルティンググループ株式会社 代表取締役
現役のAI顧問として、中小企業の経営者に月額3万円〜で直接伴走中。AI活用と売れる仕組みの両輪で、「実利」と「余白」を同時に高める伴走支援を提供しています。
