AI時代こそシングルタスク──複数AIを同時に動かさない

槙 優真
槙 優真代表取締役 / 現役AI顧問ジェネラルコンサルティンググループ株式会社

【音声で聴く方はこちら(約15分)】

🎧 https://www.general-cg.com/podcast

(テキストで読む方は、このまま読み進めてください)

1. 要点のまとめ

  • AIを使いこなせるようになるほど、ChatGPT・Gemini・Claudeを同時に動かしたり、仕事A〜Dを並列で走らせたり、というマルチタスクの誘惑が一気に強くなる
  • 私自身は普段シングルタスク中心だが、一時的に複数AIを並走させたら、5日で感覚が崩れて、その後39度近い熱が出た
  • マルチタスクは"4つ目の疲労"ではなく、第1回でお話しした「インプット疲れ・判断疲れ・不安疲れ」を一気に増幅させる装置のように効いてくる
  • 人間の脳はそもそもマルチタスクができない。タスク・スイッチングの切替コストで、生産性は最大40%下がるというデータがある
  • AIの待ち時間を別タスクで埋めず、"今この瞬間"に戻す。本を読むのも"頭を使う作業"なので、待ち時間ではなく別の時間に

※ポッドキャストでは、より詳しく丁寧にお話ししています。音声での視聴が1番オススメです。

2. ブラウザのタブだらけの脳に、なっていませんか?

オンライン通話で画面共有してもらったとき、ブラウザのタブがものすごい数開いている方、いらっしゃいませんか?何十個も並んで、一つひとつのタブが小さくなりすぎて、タイトルすら読めない状態。私は真逆のタイプでタブの数が少ないので、本人はあれをどうやって判別しているんだろうって、毎回不思議に思うんですよね。

たぶん、頭の中も似た状態になっているんじゃないかなと思うんです。脳って、視界に入っているものを全部"処理しようと"する癖があるので、タブが30個・50個開いていれば、その分、注意のリソースを持っていかれてしまう。本人が気づかないうちに、じわじわ消耗していく感じです。

AIが日常的に使えるようになった今、この消耗が一気に加速しやすくなっているなと感じています。ChatGPT・Gemini・Claudeを同時に動かして回答を見比べたり、仕事A・B・C・Dを、AIを使って同時並行で対応したりといった働き方が、特にAI活用が上手い人ほどできてしまうので、なおさらです。

3. ChatGPT・Gemini・Claudeを並走させたら、5日で崩れた

ここから私自身の話です。

私は普段、シングルタスク中心で仕事をしていて、AIを動かすときも基本は1本ずつ走らせるスタイルです。本来はマルチタスクが得意なタイプなんですが、「AIで何かをやらせている間は、他のことをしない」と意識的に決めているんですね。できるけどやらない、ということです。

ところが先日、GWに2週間ほど休んでいたので、その分やることが溜まっていたんです。一気にさばこうとして、一時的に複数AI同時稼働、というスタイルに戻してしまった。私は今メインでClaudeを使っているのですが、6つくらいの仕事を同時並行で走らせていました。仕事Aに指示を出して、AIが動いている間に仕事Bへ判断を出して、その2つが動いている間に仕事Cへ……と頭の切替スピードがどんどん上がっていく。しかも、「判断」という高度な脳の使い方をずっと続けている状態です。

最初の2、3日はめちゃくちゃ捗ったように見えました。でも5日目の時点で、自分の感覚が明らかにおかしくなっているのが分かったんです。私自身、過去にうつ病になった経験があって、その時から自分の中に「メンタルバロメーター」みたいなものを持っているんですね。HPゲージみたいなイメージで、「ここから先はちょっとまずいかも」という基準が、自分の中で明確にあるんです。今回、それにたった5日でなってしまった。

具体的な基準の1つは、夜に暴飲暴食をして帰宅が24時近くなる、ということが起きるかどうかです。普段の私は早い日だと21時22時には寝ているんですが、たまたま友達と飲みに行って、ついつい食べすぎ飲みすぎで24時帰宅。そうすると就寝が1時とかになって、翌日のバランスが崩れていく。意図して夜更かししたのではなく、"つい"なってしまう──ここがまずいサインなんですね。

意識的に休もうとしても、頭の中で交感神経がガンガン動いていて、副交感神経に切り替わらない。リラックスできないモードのまま走り続けてしまう。その数日後に、39度近い熱が出ました。声もかすれて、3週間以上もポッドキャストすら撮れない、というところまでいったわけです。

私の周りでも、AIを使いこなしてマルチタスクで仕事を進めている方で、メンタルがちょっとキツくなっている人が、1人ではなく複数いらっしゃるんですよね。AI活用が上手い人ほど、この事故は起きやすいんじゃないかなと感じています。

4. マルチタスクは、3つの疲労を一気に増幅させる装置

ここで、以前の回『#01 AI時代の「見えない疲れ」と煽りだらけの発信への違和感』でお話しした、3つの疲労──インプット疲れ・判断疲れ・不安疲れ──を思い出してみたいんです。

今回身をもって感じたのは、マルチタスクは、新しい"4つ目の疲労"というよりも、この3つを一気に増幅させる装置みたいに効いてくるということでした。

具体的にはこういう感じです。

  • インプット疲れの増幅:複数のAIからのアウトプットを並列で読まされる。1本でも結構な情報量なのに、それが2本3本走るので、目と頭がパンパンになる
  • 判断疲れの増幅:選択肢や判断材料が、同時にいくつも降ってくる。「Aを採用するかBにするか」がいくつも並行で進むので、認知リソースがゴリゴリ削られる
  • 不安疲れの増幅:進行中の案件が頭の中で同時に走り続ける。「あれも気になる、これも気になる」と思考が止まらなくなる

3つの疲労に、マルチタスクという掛け算の倍率がかかっていく感じですね。

科学の話も少しだけ。人間の脳は、本当の意味でのマルチタスクができないというのが、脳科学の合意です。同時にやっているつもりでも、客観的に見ると、ものすごい速さでタスクを切り替えているだけ。これを「タスク・スイッチング」と呼ぶんですが、切り替えのたびに脳のエネルギーがすり減っていく。研究では、複雑なタスクを切り替えると、生産性は最大40%下がるというデータも出ていますし、慢性的なマルチタスクは、うつや不安との関連も指摘されているんですね。

AIによって、この切り替えが今まででは考えられないスピードでできるようになってしまった。だからこそ、脳への負荷も今までにないレベルでかかっているのかなと思います。

5. 待ち時間を別タスクで埋めない──"今この瞬間"に戻す

じゃあどうするか。

私は今回の件で改めて、マルチタスクを避けるスタイルに戻しました。具体的には、AIを動かしているときの"待ち時間"を、別のタスクで埋めないようにしているんです。

AIに何かを頼むと、短いと数秒、長いと10分くらいの出力待ち時間ができますよね。多くの人は、ここで反射的に別のタブを開いたり、別のAIに次の指示を出したりします。私もそうでした。でも、ここをあえてぼーっとする時間にしてみる。窓の外を見る、深呼吸する、コーヒーを飲む、軽く体を動かして血流を整える。"今この瞬間"を味わう、みたいな感覚ですね。

ちなみに、私のデスクには常に本が何冊か置いてあるんですが、これも待ち時間には読みません。本を読むのは、それ自体がしっかり頭を使う作業なので、待ち時間に挟むとそれはそれでマルチタスクになって、結局脳疲労につながるんですよね。なので「待ち時間は何もしない時間」と決め切るのが、自分のスタイルです。デスクの横にはエアロバイクも置いていますが、これも待ち時間用ではなく、仕事に疲れたタイミングで漕いで気分転換してから、また戻る、という使い方をしています。

そうすると、まずアウトプットの質が変わってくる感覚があるんです。リラックス状態から出てくる発想って、緊張のときよりずっと豊かなんですよね。発明や創造的なアイデアはリラックスから来る、ってよく言われますよね。

それから、こん詰めて考えていたときには出てこなかったアイデアが、自然と出てくるようになる。なぜか物事もうまく流れる。これはおそらく、こん詰めて出すアイデアは、ガチガチに緊張した状態から出てくるので、肩こり首こりマックスみたいな"余白のない施策"になりがちなんですよね。理屈は通っていても、現実の世界はそれほど理屈通りに動かない。一方、リラックスから出てくるアイデアには余白があるので、世界の不確実性に対する柔軟さがある。変化に対応しやすいアウトプットになる、という感覚です。

6. 経営者自身の"意識のあり方"が、結果に滲み出る

もう一つ、これは私自身の実感ベースの話です。

こういう"今に在る"感覚を持つようになってから、テクニック論ではうまくいかなかった話が、自然といい方向に流れていくようになりました。商談、家族との関係、顧問先とのZoomでのやり取り。自分自身が穏やかでいると、人と話すときもせかせかしなくなる。こちらが落ち着いていると、相手も自然に落ち着いてくるんですよね。

これは「ミラーニューロン」と呼ばれる作用で、自分の状態が相手にも伝わって、似たような状態が起きやすくなる、という話です。「この人と話すとなんだか落ち着くな」「話した後ちょっと元気になるな」みたいなことが起きやすくなる、と私自身は感じています。科学的にきっちり証明できているかというと、自分でそこまで調べきれてはいないんですが、体感としてそういう実感がある。

経営って、テクニックや戦略や数字の世界に見えますが、相手も人間ですし、自分も人間です。なので、経営者自身の"意識のあり方"そのものが、結果にも、人間関係にも、じわっと滲み出てくる。マルチタスクで常に切替コストを払い続けている経営者と、シングルタスクで"今この瞬間"に在る経営者では、出てくる判断の質も、周りとの関係の整い方も、たぶん違ってくるんじゃないかなと感じています。

7. まとめ

  • AIを使いこなせるほど、マルチタスクの誘惑は強くなる。でも、本当に効くのは"あえてのシングルタスク"
  • 私は普段シングルタスク中心だが、一時的にマルチタスクに戻したら、5日で感覚が崩れて、その後39度近い熱が出た
  • マルチタスクは新しい疲労というより、「インプット疲れ・判断疲れ・不安疲れ」を一気に増幅させる装置のように効いてくる
  • 人間の脳はそもそもマルチタスクができない。切替コストで生産性は最大40%落ちる
  • AIの待ち時間は別タスクで埋めず、"何もしない時間"として残す。本を読むのも"頭を使う作業"なので、待ち時間ではなく別の時間に
  • 経営者自身の意識のあり方そのものが、結果にも周りとの関係にも滲み出てくる

「同時にもっと動かせる」というのが、AI時代の見落としやすい落とし穴かもしれません。AIが速いほど、こちらは敢えてゆっくり、1本ずつ。ぜひ今日から、AIの待ち時間にぼーっとする時間を、1分でも作ってみてください。

皆さんが実利を得て、心や時間に余白を持って、幸せに生きられることを祈っております。

槙 優真

執筆者

槙 優真

ジェネラルコンサルティンググループ株式会社 代表取締役

現役のAI顧問として、中小企業の経営者に月額3万円〜で直接伴走中。AI活用と売れる仕組みの両輪で、「実利」と「余白」を同時に高める伴走支援を提供しています。