「AIに相談しながら社内の仕組みを作っていたら、いつの間にか項目が倍になっていた」
目標の立て方を整理するシート、日報の型、新人向けのチェックリスト。AIと一緒に作り始めると、やり取りのたびに「この項目もあったほうがよいですね」と提案が返ってきます。どれも理屈は通っているので、削る理由が見つからない。そんな経験はないでしょうか?
先に結論を書きます。AIは、頼めば案を足してくれます。ところが、何を削るかは、頼み方を変えないとなかなか出てきません。だから私は、作り始める前に「やめること」を人が決め、AIにも減らす側を頼む、という順番にしています。
AIで効率化しても忙しさが変わらない理由と「余白が先」という順番の全体像は、AIで効率化しても忙しいままなのはなぜ?にまとめました。この記事では、その中でも「AIと一緒に社内の仕組みを作る場面」に絞って、増えていく項目をどう止めるかを書きます。
【この記事の要点を1枚にまとめた図解】
1. AIと仕組みを作っていると、なぜ項目が増えていくのですか?
1-1 2日かけて組み立てた仕組みが、膨らんでいった例
クライアントAさまの社長は、社員の目標設定をAIで支える仕組みを、ご自身で組み立てていました。目標をきちんと立てられる人と、そうでない人がいる。その差をAIで埋められないか、という発想です。2日ほどかけて、AIに投げかける質問のステップを1つずつ作っていきました。
もともとの流れは、とてもシンプルです。3年後に実現したい理想を書き、今の現実を書き、その間にある障害を書き、障害を越えるための行動を書く。ところが、AIとやり取りを重ねるうちに項目が付け加わっていき、最後には使う人に、必要のないことまでたくさん聞いてしまう形になっていました。
社外の方の意見も聞いたうえで、社長は作り方を見直すことにされました。いろいろな情報を足していくことはできても、目的から考えて本当に必要なものに絞り込むところで、つまずいていた。社長はそう振り返ったうえで、こう続けました。
「しかも、足し算が正しいように見えちゃうんですよね」
1-2 足した項目は、どれも正しく見える
この「正しく見える」が、増えていく一番の理由だと私は考えています。
AIは、頼まれたことに応えようとします。「もっと良くするには?」と聞けば、足りない点を探して足してくれる。足された項目には、それぞれもっともらしい理由が付いています。1つずつ見れば反対しにくいので、作っている本人ほど削れなくなるわけです。
しかも、足していく作業には、前に進んでいる手応えがあります。項目が増えるほど、しっかりした仕組みができていくように感じる。Aさまとの話でも、経験のある人でないとズレに気づきにくい、という点で意見が一致しました。
AIの得意・不得意は、これから変わっていくかもしれません。ただ、こちらが「足りないところは?」と聞き続けるかぎり、返ってくるのは足す案です。変えられるのは、AIの性質よりも、こちらの頼み方と順番のほうではないでしょうか?
2. 増えた仕組みは、そのあとどうなりますか?
2-1 10個作って、使うのは1個
AIに慣れてくると、仕組みやツールを作ること自体が楽しくなってきます。私が見てきた範囲では、ここで多くの方が同じところを通ります。次々に作っているうちに、蓋を開けてみると誰も使っていないものがいくつも残っている。10個作って、本当に使っているのは1個だけ、という形です。
作れることと、使われることは別の話です。項目の多い仕組みは、使う側の手間を増やします。目標設定のシートなら、記入する社員が答える質問が増え、読む上司の確認も増える。作った人の時間に加えて、使う人の時間まで減っていくことになります。
2-2 忙しいところに足すと、さらに忙しくなる
Aさまとの同じ回で、もう1つ話題になったのが、作業時間を記録する新しい仕組みです。いずれは会社全体の手間を減らすためのもので、必要になることは社長も分かっていました。
それでも社長は、今はAIを業務に組み込まない方がよいのでは、と考えていました。忙しさが一部の社員に集中している時期に新しい仕組みを足すと、慣れるまでの手間が、そのままその人たちにのしかかるためです。それよりも先に、その社員の残業時間を減らすことに時間を使う。私も、この判断に賛成しました。
忙しい状態でAIを足そうとすると、AIという新しい仕事が1つ増えます。作れるものが増えた今だからこそ「何を作らないか」「今は足さないか」を決めることも、AI活用の一部だと思っています。
3. 作り始める前に、何を決めておけばよいですか?
3-1 目的を1行にして、要らないものを先に決める
Aさまが見直したあとの形は、最初よりずっと小さくなりました。
もともとは、社員がAIとやり取りするだけで、100点の目標が仕上がる仕組みを目指していました。見直したあとは、AIで最低限の整理だけをして、そのあとは上司が隣で一緒に見る形に変えました。目標設定のように個別の事情が多い領域は、AIだけで100点を目指さないほうが、かえって効率がよいというのが私の実感です。AIは賢くても、一人ひとりの事情をすべて渡すことはできないためです。
AIに任せる役割も、変換から例示に変えました。社員の言葉をAIが書き換えるのではなく「障害には、知識や技術の不足、時間がない、協力してもらえない、といった例があります」のように、例を見せるだけにする。どれを選ぶかは本人が決めます。会社の目指す方向とずれていないかだけはAIが確かめる、という線も残しました。
ここで起きているのは、目的を1行に戻し、その目的に要らないものを人が先に決めた、ということです。AIの性能が上がっても、この順番は変わらないと思います。
新しく仕組みを作るなら、AIとのやり取りを始める前に、次の4つだけ書いておくと膨らみにくくなります。
- 目的:この仕組みで、誰の何を楽にしたいのか(1行で)
- 使う人と場面:誰が、いつ、何分くらいで使うのか
- 今回やらないこと:入れたくなっても、今回は入れないもの
- 項目の上限:質問や欄は、いくつまでにするか
3つ目の「今回やらないこと」が、いちばん効きます。AIから足す提案が来たとき、そこに書いてあれば迷わず断れるからです。
3-2 業務の一覧に「やめる」の欄を足しておく
仕組みを作る前の段階でも、同じ考え方が使えます。今の業務を洗い出すとき、最初から「やめる」という仕分け先を用意しておくのです。
業務の一覧を作ると、多くの方は「AIに任せられるもの」を探しにいきます。もちろんそれも大事ですが、そこに「そもそもやめる」という欄が無いと、一覧はAIで効率化する候補の一覧で終わってしまう。棚卸しの進め方そのものは中小企業のAI活用は何から始める?に書いたので、ここでは仕分け先を5つにする形を紹介します。
4. AIに「減らす側」を頼むには、どう書けばよいですか?
4-1 顧問先に渡している仕分けの指示文
クライアントBさまとのコンサルでは、前の回に、業務を洗い出して仕分ける進め方をお話ししていました。次の回までに、社長はAIでできたらよいと思う仕事を、営業の担当の方は営業スタッフに聞き取った内容を、バックオフィスの担当の方は定期的な作業を所要時間つきで、それぞれ書き出してくださっていました。
そこでお渡ししたのが、次のような指示文です。書き出した一覧と一緒に、ChatGPT・Gemini・Claudeのどれかに貼るだけで使えます。
以下は、私がやっていること一覧です。次の5つに分類してください。 ①やめる ②人に任せる ③AIに任せる ④自分がそのままやる ⑤判断保留 分類の前に、確認したいことがあれば先に質問してください。 結果は、1行ごとに理由を添えた表でお願いします。 「やめる」ことを検討できそうな項目がないかも、意識してください。 AI初心者でも、生成AI(ChatGPT・Gemini・Claudeなど)に任せやすい業務を3つ挙げてください。 気づいたことがあれば、アドバイスもお願いします。 私の業種:〇〇/立場:社長/社員数:〇人 理想的な状態:〇〇 (この下に、リストを貼る)
いちばん効いているのは、5行目の「やめることを検討できそうな項目がないかも、意識してください」です。仕分けを頼むだけだと、AIはどうしても任せ方や効率化の案に目を向けがちです。この1行を入れておくと、たとえば「成果につながっていないSNSを並行して続けているなら、1つやめてみては」のように、やめる側の提案も出てくるようになります。
AIの仕分けは完璧ではありません。自社だけの事情までは分からない状態での提案なので、最後は人が1行ずつ見て「たしかにこれはそうだ」「ここは違う」と判断します。それだけでも、どのあたりをAIで効率化でき、どこをやめられそうかの当たりが、短い時間でつくはずです。
なお、3行目の「先に質問してください」も役に立ちます。指示が足りていない部分を、AIのほうから聞いてもらう頼み方です。詳しくはプロンプトの書き方に迷ったときの記事に書きました。
AIは、なるべく賢いものを選び、考える量を多めに設定して使ってください。考える量が少ないままだと、仕分けの理由が浅くなりがちです。
4-2 仕組みを作るときにも、減らす役を渡しておく
社内の仕組みをAIと作っている途中なら、目的を書いたうえで、減らす役を明示して頼みます。たとえば、次のような一言です。
この仕組みの目的は〇〇です。 目的に照らして、なくても困らない項目を挙げ、それぞれ理由を書いてください。 残す項目は〇個までに絞ってください。足したほうがよい項目の提案は、今回は不要です。
「足す案は不要」と書いておくのが、ポイントです。言わなければ、AIはいつものように足りない点を探しにいきます。
4-3 私自身のニュース収集でも、減らす側をAIに任せている
私は、AIに関するニュースをAIに集めさせ、メールで届く仕組みを使っています。ここでもAIに頼んでいるのは、集めることより、むしろ減らすことのほうです。
同じことを書いた記事は1本だけ残す。3日以内に届けた記事は外す。残ったものには重要度を3段階で付けてもらい、私の仕事に関係のないものは「載せない」に振り分けてもらう。ある朝の例では、集まった96件のうち74件が外れ、届いたのは22件でした。
判定の基準も、使いながら直しています。「この分野の話は私の仕事に関係がないので、今後は載せないでください」と伝えると、次から外れるようになります。
Bさまとの回でも、お客さまごとのニュースを集める仕組みを考えました。担当するお客さまが何百社もある方に、毎日何百通もお知らせが届いたら、まず読みません。そこで、重要なお客さまに絞るのか、どこまで載せるのかを、作る前に社内で決めておくことをお勧めしました。集める仕組みを作るときほど、減らす基準まで一緒に渡しておくと、届いたものを最後まで読める量に収まります。
5. それでも増えてしまったら、どこから減らせばよいですか?
すでに仕組みやツールがいくつもできているなら、まず数えるところから始めます。作ったものを一覧にして、この1か月に実際に使ったものに印を付ける。印の付かないものが、やめる候補です。
その一覧を、先ほどの仕分けの指示文に貼ってAIに分けてもらう方法もあります。自分で作ったものは、手間をかけたぶん手放しにくいものです。理由つきで「やめる」の候補を挙げてもらうと、判断の材料が1つ増えます。
5-1 当社の場合
当社の顧問では、AIで何を作るかを決める前に、今の業務の一覧から、やめることと任せることを一緒に決めるところから始めています。仕組みを作り始めたあとも、増えた項目を減らす側の相談相手になります。
料金は月5万円からで、代表本人が対応します。内容はサービス詳細ページをご覧ください。何から減らせばよいかを一緒に考えるところからでも構いません。無料の壁打ちで、今の状況を聞かせていただければと思います。
6. まとめ
- AIは頼めば案を足してくれるが、何を削るかは頼み方を変えないと出てきにくい
- 足された項目は、どれも正しく見える。だから作っている本人ほど削れない
- 作り始める前に目的を1行にして、要らないものを人が先に決める
- 業務の一覧には、最初から「やめる」の仕分け先を用意しておく
- AIにも、減らす側の役を明示して頼む(「足す案は不要」と書く)
7. FAQ|AIを使うとやることが増えるときによくある質問
Q1:AIに相談すると、なぜ案がどんどん増えるのですか?
A. AIは頼まれたことに応えようとするため「もっと良くするには?」と聞くと、足りない点を探して足してくれます。足された項目にはそれぞれ理由が付いているので、1つずつ見ると反対しにくく、結果として全体が膨らみやすくなります。
Q2:AIに「やめること」を提案させるには、どう頼めばよいですか?
A. 仕分け先の中に「やめる」を入れたうえで「やめることを検討できそうな項目がないかも、意識してください」と一言添えます。仕組みを作る途中なら、目的を書いたうえで「なくても困らない項目を挙げてください。足す案は不要です」と、減らす役を明示して頼みます。
Q3:AIで作った社内ツールが、使われないのはなぜですか?
A. 作れることと、使われることが別だからです。項目の多い仕組みは、使う人の手間を増やします。作る前に目的を1行にして、それに要らないものを先に外しておくと、使われる形に近づきます。
Q4:仕分けは、どのAIで試せばよいですか?
A. ChatGPT・Gemini・Claudeのどれでも試せます。普段使っているものに、業務の一覧と仕分けの指示文を貼ってみてください。なるべく賢いものを選び、考える量を多めに設定すると、仕分けの理由が具体的になりやすくなります。
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執筆者
槙 優真
ジェネラルコンサルティンググループ株式会社 代表取締役
現役のAI顧問として、中小企業の経営者に月額5万円〜で直接伴走中。AI活用と売れる仕組みの両輪で、「実利」と「余白」を同時に高める伴走支援を提供しています。




