※この記事は、ポッドキャスト『実利と余白』エピソード#22「AI自動化は『時短』だけじゃない。『判断疲れの軽減』にも有効」の内容を記事化したものです。
【音声で聴く方はこちら(約15分)】
🎧 https://www.general-cg.com/podcast
(テキストで読む方は、このまま読み進めてください)
1. 要点のまとめ
- AIを使い倒すほど、人間に残る「判断」の量はむしろ増えがち。これが「判断疲れ」を引き起こす
- AI自動化のメリットは、時短だけでなく「判断疲れの軽減」にも同じくらい大きく有効
- 自動化を選ぶときは「どれくらい時短できるか」だけでなく「どの判断を手放せるか」という視点も持ちたい
- ただし、全部の判断を手放すとAI丸投げ(=質の低下)になるので、判断ゼロにはしない
※ポッドキャストでは、より詳しく丁寧にお話ししています。音声での視聴が1番オススメです。
2. AI自動化のメリット、時短だけで測っていませんか?
私は月に1回のペースで「新経営戦略塾」という経営者が400人ほど在籍している経営塾で、AI講義を担当しています。経営者やビジネスマンの方々に、AIを自社でどう使うかというお話をする場です。
先日その講義の後、参加された経営幹部の方から、時間をあけて2通の感想をいただきました。その感想がとても素敵だったので、そこから得られる大切な視点を、今回は共有したいと思います。
先に結論をお伝えすると、AI自動化のメリットは、単に時短する、時間が浮くだけではないということです。時間が浮くのと同じくらい「判断疲れの軽減」、つまり頭の疲れの軽減が大きい、という話です。
もしかしたら「AIで仕事を効率化しているのに、なぜか毎日疲れている」という感覚のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。もしあれば、今日の話がそのヒントになるかもしれません。
3. 人は1日に判断できる量が決まっている
なぜ「判断疲れの軽減」がそんなに大事なのかを、まずお話しします。
このポッドキャスト・コラムでよくお話ししているのですが、人間の脳には「システム1」と「システム2」と呼ばれる2つのモードがあります。システム1は直感的・自動的に反応する脳のモード、システム2はじっくり熟考してから対応する脳のモードです。日中はしっかり頭を使って考えられるのですが、システム2は1日に使える量、HP(ヒットポイント)のようなものが決まっているのです。
朝から昼にかけて重要な判断や意思決定を繰り返していると、徐々に頭が疲れてきて、じっくり熟考ができなくなります。すると、直感的・自動的にだけ反応するシステム1の使い方になってしまう。ガソリンが徐々に切れていくような感覚とも言えるでしょうか。このシステム1・システム2の話は『ファスト&スロー』という本に書かれています。
これが、AIを使っていると結構深刻に影響してくるのです。
AIで作業は自動化できて、どんどん早く片付くようになりました。ただ、早く終わった分、大事な判断のような仕事が人間側にどんどん残っていきます。しかもその判断が、作業が効率化されている分、すごいスピードで次々と迫られてくるのです。
たとえば、AIを使う前は、判断があって、作業に1〜2時間かかって、また次の重たい判断が来る、というペースだったとします。それがAI活用後は、判断があって、作業がAIで3分に時短されて、3分後にはまた次の判断、その3分後にまた重たい判断…となる。同じ1時間でも、AIを使う前は重ための判断が2回だったのが、AIを使いこなしていくと、1時間で10回ぐらい重たい判断が来る、というイメージです。
なので、時短はできているのに、頭が非常に疲れる。こういう状態が起きてしまいます。これは、AIを普通に学んで使っている人だと無意識に陥る落とし穴で、私はこれを独自に「判断疲れ」と呼んでいます。
だからこそ、時短するのと同じくらい「人間の判断の数を減らすこと」に価値がある、というのが今日の話の土台になります。
4. 「いつやるか」を、丸ごとAIに任せた話
ここから、AI講義の感想として経営幹部の方からいただいた具体的な事例を共有します。
まず「何を、いつやるか」というタスク管理、皆さんも日々やられていると思います。タスクがあって、それをいつまでにやるか、スケジュールのどこに入れるか。これが、微妙に頭を使う作業ではないでしょうか。「あの日が締め切りで、こちらの予定もあるから、では、どこに入れよう」といった具合です。私自身も、結構この判断に頭を使っている感覚があります。
これを丸ごとAIに任せる仕組みを、この方は作られたのです。こんなことまでAIでできる、というのを知っていただきたいので、少し丁寧に紹介します。
仕組みはこのような形です。まず、自分のタスクをGoogleのスプレッドシート(Excelのようなもの)に、どんどん書き出していきます。ミーティングや資料作成、営業フォローといったタスクを並べていく。その中で「この日時にやる」と決まっているタスクは、日時を入力しておく。まだ決まっていないタスクは「所要時間」と「対応期限」の2つだけ横に書いておきます。たとえば「資料作成、所要2時間、期日は7月15日」といった形です。
すると、裏側に仕込んであるAIが動きます。この方のGoogleカレンダーにすでに入っている予定を避けながら、スプレッドシートに書いたタスクの緊急度・重要度を踏まえて、スケジュールの空いている場所に自動で割り当ててくれる。Googleカレンダーに直接書き込んでくれるイメージです。たとえば「来週月曜の14時から2時間は資料作成」といった予定が、勝手に入っていくのです。
この裏側で動いているのが、GAS(Google Apps Script)と呼ばれるGoogleが用意している自動化の機能です。簡単に言うと、Excelのマクロとほぼ同じで、そのGoogle版のようなものです。しかもこの仕組み、人間がコードを書かなくても、AIに「こういうことがやりたい、GASのコードを書いて」と日本語で伝えるだけで書いてくれます。この方も、最初はうまく動かなかったそうですが、壁打ちしながら3時間ほどで完成したと感想に書いてくださっていました。「Googleカレンダーにタスクが反映された瞬間は達成感が半端なかった」とも書かれていて、こちらも読んでいて嬉しくなりました。
その感想の中で、私が特に印象的だったのが次の内容です。
これまでは、タスクが来るたびに「どのくらい時間がかかりそうか」と「いつやるか」の2つを考えていました。でも今は「どのくらいかかるか」だけ考えれば「いつやるか」はGASが自動でやってくれる。判断疲れの軽減にもつながる気がします。
さらに2通目の感想には、次のような一文もありました。
予定を組むことに頭を使わなくてよくなって、実行に集中できるようになりました。
ポイントは「どのくらい時間がかかりそうか」は、そのタスクをやる本人にしか正確には想像できないという点です。AIも想像はできるのですが、全然的外れな所要時間になることもあります。一方で「いつやるか」は、その人のスケジュールを見て空き時間に入れる、早めにやるべき重要なものは早めに入れる、というロジックさえあれば決まるので、人間が毎回考える必要はない。ここはAIに渡せる領域です。
つまり、人間がやる部分とAIに渡す部分を明確に分けて設計されているわけです。「重要度・緊急度で判断してほしい」とAIに伝えれば、スケジュールと見比べながら、しっかり入れてくれる。
これは「何分時短できたか」だけでは測れない、"頭の使い方が変わる"タイプの効果です。カレンダーとにらめっこして自分で予定を入れる時間、これがAIがやってくれる分なくなる。さらに「どこに入れよう」と悩む判断もなくなるので、頭の疲れも軽減されるのです。
5. 「何分減るか」より「どの判断を手放せるか」
ここまでの話を踏まえて、皆さんに持ち帰っていただきたい視点が一つあります。
AIで自動化を考えるときに「これでどのくらい時短できるか」だけではなく「これを自動化することで、自分は何の判断を手放せるか」。この視点を一緒に持ってみると、効き方が変わってきます。
時短で浮いた時間に新しい仕事を詰め込んでも、判断の総量が同じであれば、結局同じくらいの判断を毎日することになるので、夕方の疲れは減りません。しかもAIで時短が進むほど、人間に残る仕事が判断そのものになってくる。同じ夕方まで働くのでも、AIを使う前は判断が10個だったのが、AI活用後は50回判断する、というふうに増えてしまうのです。
だからこそ、AIを使って時短するだけではなく、判断もなるべく手放していく。そうすると、夕方以降も頭が疲れ切っていない状態になるので「ここぞ」という大事なところで判断のリソースをしっかり使えたり、夜に家族とゆっくり話す余裕が生まれたりします。
世の中のAI活用は、基本的に時短や自動化の話が中心だと思うのですが、もう少し深掘りしていくと「判断のリソースをいかに保つか」というテーマにも広がってきます。もし「AIで効率化しているのに、なぜか毎日疲れている」という感覚があれば、自分の判断の量がとんでもなく増えていないか、一度立ち止まって振り返ってみる。この振り返りが今日の持ち帰りとして、おすすめしたい内容です。
6. ただし、判断ゼロにはしない
一つだけ、注意点として添えておきたい点があります。
判断疲れの軽減が大事だからといって、すべての判断を手放してしまうと、AI丸投げになってしまい、アウトプットのクオリティが微妙になってしまうという側面があります。人間がやるべき判断(クオリティを決める部分・方向性を決める部分・重要な意思決定)は、AIに渡さずに握っておく。この線引きが大事です。
また、以前の回『#18 AI時代こそシングルタスク、複数AIを同時に動かさない』でもお話ししたのですが、AIを使ってマルチタスクをすると、判断の量が膨大になりすぎてかなり疲弊します。AIを使うときはむしろシングルタスクで、というのもおすすめです。合わせて聞いていただけると役に立つのではないかと思います。
7. まとめ
- AIを使い倒すほど、人間に残る「判断」の量はむしろ増えがち。これが「判断疲れ」を引き起こす
- AI自動化のメリットは、時短だけでなく「判断疲れの軽減」にも同じくらい大きく有効
- 自動化を選ぶときは「どれくらい時短できるか」だけでなく「どの判断を手放せるか」という視点も持ちたい
- ただし、全部の判断を手放すとAI丸投げ(=質の低下)になるので、判断ゼロにはしない
AIによる時短の恩恵を受けながら、判断のリソースをしっかり保っていく。そうすれば、夕方以降も頭が疲れ切らずに、大事な場面や家族との時間に脳のリソースを残せるはずです。
皆さんが実利を得て、心や時間に余白を持って、幸せに生きられることを祈っております。
関連コラム

執筆者
槙 優真
ジェネラルコンサルティンググループ株式会社 代表取締役
現役のAI顧問として、中小企業の経営者に月額3万円〜で直接伴走中。AI活用と売れる仕組みの両輪で、「実利」と「余白」を同時に高める伴走支援を提供しています。
