AIの最前線にいる人ほど、なぜ"現場"に戻り始めているのか

槙 優真
槙 優真代表取締役 / 現役AI顧問ジェネラルコンサルティンググループ株式会社

※この記事は、ポッドキャスト『実利と余白』エピソード#23「AIの最前線にいる人ほど、なぜ"現場"に戻り始めているのか」の内容を記事化したものです。

【音声で聴く方はこちら(約18分)】

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(テキストで読む方は、このまま読み進めてください)

1. 要点のまとめ

  • AIの最前線にいる経営者ほど、農業や貿易など"現場"の仕事に重心を移し始めている
  • ホワイトカラーの"足切りライン"が一気に上がり、真ん中のオペレーション業務が徐々に消えつつある
  • 残るのは「AIに何をやってもらうかを言語化できる人」と「現場に身体ごと居られる人」の両端
  • 仕事は、AIに渡せる部分と、自分が現場に立つしかない部分に分類できる
  • AIで浮いた時間を"何に"使うかを先に決めておかないと、また雑務で埋まってしまうので注意

※ポッドキャストでは、より詳しく丁寧にお話ししています。音声での視聴が1番オススメです。

2. AIに詳しい経営者たちが、"現場"に戻り始めている

先日、AI業界の最前線にいる経営者の方々と情報交換をする機会がありました。そこで出てきた話の中で、非常に印象的だったことがあります。

一人は、AIエージェントを実際に開発・運用されている建設会社の社長さん。そもそも建設業の社長でありながらAIに私以上に詳しいという方なのですが、最近「山を買って、農業を始めた」とおっしゃっていました。また同席していた別の経営者の方は、最近の関心事として「海外への買い付け、輸入販売のような貿易ビジネス」を挙げていました。

お二人に共通していたのは、人と人が顔を合わせる中で築いた信頼関係でしか動かない仕事や、AIとは直接関係のない仕事に、重心を移していきたいという感覚です。

これを聞いたとき、少し不思議な感覚を覚えるかもしれません。AIを最も深く使い込んでいる人たちが、なぜわざわざAIから遠い、土や生身の人付き合いの世界に重心を移すのか。私自身もAI業界の最前線に近いところで活動しているので、彼らの言っていることは肌感覚でよく分かります。今日はこの"なぜ"の部分を、経営者・ビジネスパーソンの目線で整理してみたいと思います。

3. ホワイトカラーの"足切りライン"が上がった

この話は、一部の変わった経営者だけの話ではありません。私たちの日常や仕事と、けっこう地続きの話なのです。

情報交換会での共通認識として出ていたのは、いわゆるパソコン作業を中心とするホワイトカラーの仕事の"足切りライン"がすーっと上に押し上げられ続けている、という話でした。ホワイトカラーとは、工場などで手を動かすブルーカラーの対極にある、知的労働を中心にする働き方のことです。

数年前までは、ちょっとした調べ物、メール文の作成、書類作成、議事録取り、データ集計といった作業は、人がやる前提でした。それが今は、こうした作業を丸ごとAIに投げられるようになりつつあります。

象徴的だったのが、東大生の就職人気が「コンサルタント」から「官僚」に戻ってきているという話です。有名なコンサルティングファームで若手が担う作業は、リサーチをはじめ、AIでもできそうな仕事が中心。頑張ってコンサル業界に入ったとしても、若手のうちにやる仕事はAIに代替されていく。だとしたら、そもそもAIが入りにくい領域を、学生のうちから探しに行っている、というわけです。官僚は、泥臭い調整や複雑な人間関係の中で動く仕事が多いため、AIに代替されにくい。それゆえの回帰現象と言えます。

経営者目線でも、これは他人事ではありません。誰がやっても同じ結果になるような作業だけでなく、リサーチのような知的労働でさえ、AIでやれてしまうようになっている。同じ会社の中でも、AIに置き換わる部分と、現場でしか持てない情報や関係のように相対的に価値が上がる部分とで、静かに二極化が進みつつあります。

4. 残るのは「発想する人」と「現場に居られる人」

足切りラインが上がった後、何が残るのか。

ひとつは「何をやらせるかを言語化できる人」です。AIを動かす元になる発想や「そもそもこれってどうなのか」という問いを立てる部分、コンセプトの部分です。AIで多くのことが自動化できるからこそ、"何を作るか・何をするか"を考えられる人の希少性が、相対的に上がっています。

もうひとつは「現場に身体ごと居られる人」です。山を見て、土を触って、人と直接会って、その場の空気感や、そこでしか得られない信頼や情報を扱う人。

興味深いのは、AIに詳しい人たちほど、どちらか片方ではなく、両端を同時にやろうとしているという点です。「AIの専門家だからAIを極めていく」だけではなく、真逆の方向も同じくらい大切にしている。たとえば昼間は最先端のAIを使い倒しながら、土日や夜は貿易ビジネスの準備をしたり、山に行って農業をしたりしています。頭の発想と、身体ごとの現場。真ん中のオペレーション業務が抜けて、両端だけが残っていく、そんな極端な構図になっているように感じます。

5. 経営者は、どちらの端に立つか

これは経営者・ビジネスパーソンにも、そのまま当てはまる話ではないでしょうか。

自社の業務を見たときに「ここは何をやらせるかをこちらで設計すれば、AIに任せられる」という領域と「ここは自分が現場に立って動かないと、誰にも任せられない」という領域。この2つに、けっこうきれいに分かれると思うのです。ご自身の業務を一度洗い出して、この観点で仕分けしてみると、案外はっきり分かれてくるはずです。そして、その中間にある半端な業務は、大抵はそもそもAIで半自動化できるか、あるいはそもそもやる必要すらない業務だったりします。

ところが実際には、経営者自身が真ん中の作業、たとえば資料の細部の修正や、定型のメール返信、データの集計などに時間を吸い取られていることがよくあります。この辺は、細かい指示さえこちらで出せば、AIでやれてしまうものばかり。足切りラインが上がっている今、自分の時間をどこに配分するかは、意識的に選び直す価値がとても高くなっていると感じています。

もう少しやわらかく言えば「AIに何をやらせるかを考える時間」と「身体ごと現場に出ていく時間」。この2つを明確に分けて、自分のスケジュールの上位にどれくらい残せているか、ということです。すでにAIを業務で使い、効率化できているという方もいらっしゃるでしょう。しかしその結果、机やパソコンに向き合う時間がむしろ以前より増えているとしたら、本来の方向とは少し逆かもしれません。

6. 私の実例:判断とコミュニケーションだけを、自分のメインに

私自身、クライアントの利益と時間を増やすAIコンサルが事業の中心なのですが、コンサル業務に関するあらゆる作業を、実はほとんどAIで回しています。たとえば、事前の下調べ、下調べした情報を自分が話しやすいようにまとめる、打ち合わせ用の資料を作る、企画書やパワポのスライドを作る、パソコンの操作、いまこのポッドキャストで話している原稿のファイル作成。さらに、まだ広く公開はしていないのですが、YouTubeをAI主体で運用したときにどれくらいのクオリティになるかという実験もしていて、動画の編集ごとAIに任せてもいます。

つまり、真ん中の業務、"人間がやったほうが確実に良い業務"と"ものすごく頭を使う業務"の間の部分を、AIに投げているという感じです。そのうえで、最後に自分のメインの仕事として残しているのは、AIに指示を出す、AIのアウトプットをブラッシュアップする、最終判断をする、そして生身の人間としてZoomや対面でクライアントさんとコミュニケーションを取る、主にこの4つです。特に、私の判断が関わるところと、人と接するところ。この2つを、大切な業務として自分の中に持ち続けている感覚です。

そうなってくると、判断の精度や、コミュニケーションの質。こういったものをより高めていくことが大切になってきます。本当に重要な業務としてこの2つが残っているのですから、その質を高めたほうが良い、という発想になるのは自然な流れです。

7. 浮いた時間を"何に"使うか

判断とコミュニケーションの質を高めるにはどうすればよいか。私の場合は、自分自身の頭・心・意識を常にニュートラルな状態に保っておくことが秘訣だと考えています。ですから、AIで浮いた時間を、他の仕事で詰め込むのではなく、心穏やかにゆるゆるリラックスする時間、良質な本を読む時間、ヨガで身体を整える時間、瞑想で心を整える時間。こうした身体と心のチューニングに、優先的に当てるようにしています。

こうして"真ん中の作業"をAIに丁寧に任せていくと、時間は自然と生まれてきます。この浮いた時間を、ご自身にとって本当に大切なことに振り替えていく。仕事であれば、社長自身がトップ営業としてお客様の前に立つ時間、マネジメントとしてスタッフに向き合う時間、判断や戦略を突き詰める時間。プライベートであれば、家族との時間を優先的に取る。こうしたところに時間が振り分けられていけば、めぐりめぐって、仕事なら利益に、家族なら関係性の深まりや幸福感につながっていくのではないかと考えています。

ただし、注意点として、AIで浮いた時間を"何に"使うのかを、あらかじめしっかり考えて決めておかないと、せっかく浮いたはずの時間が、気づいたらまた他の雑務で埋まってしまい、結局忙しいままになってしまいます。これでは本末転倒ですよね。いろいろな方と接してきた中で、体感9割くらいの方が、このAI活用の落とし穴にはまった経験があるのではないかと感じます。はまっていることに気づいていない方も、けっこう多い印象です。

皆さんの1日の中で、まだAIに任せられそうな"真ん中"は、どのくらい残っているでしょうか。あるいは、AIを使っているのに忙しさが変わっていない、むしろ忙しくなっているとしたら、それはどこから来ているのか。

一度、そのあたりを振り返ってみては、いかがでしょうか?

8. まとめ

  • AIの最前線にいる人ほど、農業や貿易など"現場"の仕事に戻り始めている
  • ホワイトカラーの"足切りライン"が一気に上がり、真ん中のオペレーション業務が徐々に消えつつある
  • 残るのは「AIに何をやってもらうかを言語化できる人」と「現場に身体ごと居られる人」の両端
  • 仕事は、AIに渡せる部分と、自分が現場に立つしかない部分に分類できる
  • 浮いた時間を"何に"使うかを先に決めておかないと、また雑務で埋まってしまうので注意

AIによって"真ん中"が抜けていく時代だからこそ、自分が両端のどちらに時間を置くか、意識的に選ぶ価値が高くなっています。最近のあなたの1日を、一度振り返ってみてはいかがでしょうか?

皆さんが実利を得て、心や時間に余白を持って、幸せに生きられることを祈っております。

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槙 優真

執筆者

槙 優真

ジェネラルコンサルティンググループ株式会社 代表取締役

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